多発する太陽光発電所のケーブル盗難~その傾向と対策

銅の価格高騰が続く中、太陽光発電所のケーブル盗難も後を絶ちません。ケーブル盗難については以前から取り上げてきましたが、今回は多発する盗難の傾向や対策、注意点などを紹介させていただきます。

被害件数・エリアともに拡大

太陽光発電所の銅ケーブル盗難の被害が相次いでいます。
茨城県内ではなんと昨年1年間で1,675件の太陽光発電設備が津南被害に遭っています(茨城県警資料より)。ソラパトが点検を行っている発電所の盗難発生件数を見ても、2024年は5月27日時点で既に27件と2023年の年間発生件数30件に迫っており、倍増以上の勢いです。

盗難被害件数の推移(2024年5月時点)※ソラパトデータより

盗難件数の推移(ソラパト管理の発電所)被害に遭った地区を見てみると、これまでは関東地区中心でしたが、最近は中部地区の被害件数が増えてきており、被害が全国に拡大しつつあることが分かります。
近年、銅の市場取引価格が数年前の倍以上に高騰しており、高度な犯罪集団が暗躍していると考えられます。あまりにも発生件数が多いため、大手損害保険会社も、保険の免責額を上げたり、場合によっては保険の引受け自体を断るという状況まで発生しているため、太陽光発電所の定運営に暗雲が立ち込めつつあると言っても過言ではありません。
弊社にもテレビ局から数件の取材依頼がありましたが、太陽光発電所のケーブル盗難はテレビのニュースでも頻繁に取り上げられており、一般の生活者にも知られてきています。

 

変化する盗難被害の傾向

以前は高圧の発電所が被害に遭うケースが多かったのですが、最近の盗難の新たな傾向として、低圧の発電所での被害も増えてきています。特に「分譲型」とよばれる、同じエリアに複数の低圧発電所が隣接しているケースで、複数の低圧発電所がまとめて盗難に遭うケースも多発しています。さらに、電気メーターから先の電力会社側の設備(いわゆる一次側)の被害も急増しています。
一般的に直流側(太陽光パネル側)の設備は、発電していない夜間には感電の危険性が無いことから狙われやすかったのですが、現在は交流側のケーブルまで易々と狙われてしまうケースもあるようです。

一次側のケーブルが盗られるケースも

そして“模倣犯”という表現が正しいか分かりませんが、太陽光発電所のケーブルは盗みやすい、お金になるというような情報から盗みに入ったものの、何に手を付けてよいか分からず、簡単に持ち出せそうな細いケーブルを盗っていったというようなケースもあります。
ニュースなどでケーブル盗難が話題になることは、防犯に繋がるばかりでなく、犯罪が広がるという側面もあるのかもしれません。

犯行の手口からの考察

盗難の具体的な対策についてご紹介する前に、犯行の特徴から対策の方向性を探ってみます。
報告されている事例などから以下のような傾向があることが分かります。

下見をし計画的に行うグループが多い
同じ発電所が繰り返し被害に遭う

防犯カメラが犯行の様子を捉えた映像をいくつか見ましたが、見張り役や指示役など含む複数人が鮮やかな手際で大量のケーブルを盗み出していました。その様子から、発電所への侵入経路や発電所の構造、搬出経路なども熟知しているように感じられました。彼らはしっかり下見をして、盗みやすい発電所を狙っているのでしょう。
センサーやカメラがあっても、センサーが反応しないフェンスを切断したり、カメラの配線を切断する、カメラを覆うなどして侵入してきます。
さらには、同じ発電所が複数回狙われるケースも多く、場合によっては、盗難後、復旧工事を行おうとした際に、さらに残りのケーブルまでもが二次被害にあっていた、というケースも度々発生しています。
ですので、下見に来た際に

この発電所は盗みにくい
と気づかせること、一度盗まれた施設でも、

対策を施しているとアピール
することがポイントと考えられます。

少し話が逸れるかもしれませんが、発電所でフェンスが切断されていたり、通常は通りにくいアクセス道路がキレイに(?)なっていたりしたら、それは確認や準備の形跡と疑って、早急な対策を検討すべきかもしれません。

 

具体的な盗難対策例

これらの特徴から考えるに、以下のような方向性の対策が有効と考えられます。

①侵入しにくくする
②盗みにくくする
③盗む価値を下げる
④対策済みであることをアピールする

では各々につい簡単に具体例を挙げながら説明していきます。

①侵入しにくくする

防犯カメラの増設、夜間の照明点灯、センサーが侵入を検知すると音や光を出すなどして、警告を与えることで侵入を防ぐことがまず考えられます。

セコムなどのセキュリティ会社に警備を依頼することも有効です。全ての発電設備に即座に駆け付けることは難しいかもしれませんが、実際、警備会社に依頼したことで盗難がなくなった発電所もあります。24時間、カメラで監視するサービスなども出てきています。犯行に気づいた際にどのように対応できるかという課題は残りますが、そこで照明を点けたり、音声を流したりすれば効果はありそうです。

ただ、先にも述べたようにこれらの対策をかいくぐって犯行に及ぶ場合もあり、完璧な手段とは言えません。音での警告も、近隣住民への配慮で設置をためらう発電事業者さんもいらっしゃいます。

ケーブルは相当の重量があるため、窃盗団は車に積み込んで運ぶことが想定されますが、それを逆手にとって、発電所への車の侵入をしにくくする、という対策も有効です。発電所に車が近づきにくくするのですが、その一つの例が「バリカー」と呼ばれる、ショッピングセンターや公共施設などに設置する車止めです。

ある発電所では、バリカーを設置する前まで6回の盗難被害がありましたが、設置後、被害が無くなったという報告を受けています。

②盗みにくくする

物理的にケーブルを抜き取りにくくする策も有効ですので、その例を挙げます。

接続箱、集電箱ケーブル露出部分を隠す
ケーブルラックカバーのステンレスバンド固定数を増やす
結束バンドでケーブルラック内のケーブルを数本単位で捕縛する

これらは弊社のお客様で実際に行った対策の一部です。
高圧発電所でハンドホールを使用したケーブル敷設の場合、引き抜かれて被害にあったケースも多く、ある発電所では、ハンドホールを2重ロックにして開けにくくしたものの、あっさりと破壊されて2回目、3回目の盗難被害を受けてしまいました。

そこでハンドホール自体をコンクリートで覆ったところ、その後は被害が無くなっています。メンテナンス性は著しく低下しますが、背に腹は代えられない苦肉の策といったところでしょうか…。

 

③盗む価値を下げる

ちょっと分かりにくい言い方になってしまったかもしれませんが、要は盗んでもお金にならないとターゲットにされないようにするということです。具体的には高騰する銅からアルミのケーブルに交換します。
アルミは銅に比べ価格は約1/3で流通が少ないので売却すると目立つため、避けられるのではないかと考えられます。
ご存じのようにアルミは銅より導電性が劣るため、太くする必要があり、機器や配管などにも手を加えなくてはならない場合もありますが、最近はアルミケーブルに交換されるお客様も増えています。
これは盗難に遭った後に限らず、事前の対策として交換されるケースもあり、使用していた銅線が高値で売れるということも後押しになっているかもしれませんが、それだけ盗難のリスクを重く考えているということの現れです。

 

④対策済みであることをアピールする

犯行グループは下見をしたり、同じ発電所を狙う傾向がありますから、
その際に「この発電所は対策がされている」ことをアピールすることも有効な手段です。
仮にケーブルをアルミにしていても、それを知らせておかなければ侵入され、アルミのケーブルを盗まれてしまうかもしれません。

警告や対策をアピールするポスターや看板は、警察署などが配布していたり、販売している看板業者様もいらっしゃいます。また、エネテクのWEBサイトでも啓発ポスターのPDFデータを無料でご提供しています。

ご紹介した対策は、どれも有効とは考えられるものの、これだけで完全に防ぐことができるとは言い切れません。それでも発電所の環境に合った手法を組み合わせるなど、何らかの対策をすることをお勧めします。

 

被害に遭ったらどうすればよい?

盗難に遭ってしまったどうすればよいのか?
警察に通報し、施工業者や保険会社とやり取りしながら、復旧していくことになるのですが、数か月の期間を要するケースもあります。

被害や工事の規模によりますが、
□ 現地確認・調査~見積:1~3週間
□ お客様の検討機関 :1~3週間
□ アルミケーブルなどの手配:1~2カ月
□ 工事:約1カ月
とざっくりですが、
3~4カ月、場合によってはそれ以上の期間を要します。

保険に入っていれば、工事費用やその期間中の売電補償もあるのですが、売電補償の期間については上限が設定されている場合もありますので注意が必要です。

盗難被害後の注意点

万が一、盗難に遭ってしまった場合には、他にも注意すべき点があります。
それは慣れていない犯罪者による二次被害です。
例えば、盗難被害があった発電所において、盗まれたケーブルの箇所のみの復旧工事を行って連系させたところ、盗難を受けていないエリアのケーブルからアークが出てボヤ騒ぎになったケースがありました。

泥棒が犯行を行った際、切断を試みて諦めたのか、ケーブルの被覆のみが削られた状態となっている箇所あり、連系後にその削られた箇所からアーク放電が発生したのが原因でした。

幸い大事故にはならなかったものの、盗難事故の復旧時には、ケーブルの絶縁状況などの点検も重要であることを再認識した事例でした。実際、絶縁不良調査を行った際に、盗難時のケーブルの被覆のダメージを発見できたケースも多々あります。

この画像は、被覆のみをカッターなどの鋭利な刃物で削っただけで切断できなかった事例です。同様に、被覆に切れ込みを入れたのみで残置されているケースも多く、こういったケースでは、多くの場合はケーブルの絶縁状態が悪くなっているため、連系後の重大事故にならないよう、綿密な点検を行うべきと考えます。

エネテクならワンストップで対応

弊社では、これまで蓄積してきたノウハウを活かして、迅速かつ安全な復旧工事や盗難対策はもちろん、警察や保険会社とのやり取りのお手伝いもさせていただいております。

特に保険に関しては、グループの保険代理店、エネテクインシュランスサービス(EIS)は、盗難、休業損害保険ともに引受け可能です(2024年6月現在)。

このようにワンストップで対応させていただけますので、お客様の負担を軽減するとともに、スピーディな対応が可能です。盗難に関してもまるっとエネテクにお任せください。

>>エネテクの盗難の防犯/復旧工事

再生可能エネルギーの普及拡大に向けて

増加するケーブル盗難。地域によっては警察や行政が本腰を入れて対策を始めています。犯行グループの摘発はもちろんですが、買取業者に対して、盗品と疑われる場合の買い取りに関する規制の強化なども早急に必要でしょう。
私たちとしてもお客様が盗難に怯えることなく、再エネの普及拡大、安定稼働にご注力いただけるような世の中になることを願っています。

※本記事は Enetech Times vol.40 から転載しています。